APEXの運営は年間いくらかかる? 人気FPSの運営費を試算して分かった「新作が生き残れない理由」

その他ゲーム

『Apex Legends』を起動する。

「今日はランクでもやるか」

そんな軽い気持ちでマッチングボタンを押せば、しばらくして試合が始まる。

基本プレイは無料だ。

しかし当然ながら、私たちが無料で遊んでいる間にも、ゲームを動かすためのお金は発生し続けている。

世界各地のゲームサーバー。

膨大な通信を処理するネットワーク。

アカウントや戦績を管理するデータベース。

チート対策。

新しいレジェンドやマップを作る開発者。

不具合修正、バランス調整、カスタマーサポート――。

APEXのような巨大オンラインFPSを365日動かし続けるには、一体いくら必要なのだろうか。

今回は『Apex Legends』『VALORANT』『Overwatch』という世界的人気FPSを例に、その年間ランニングコストを大胆に試算してみた。

すると見えてきたのは、新しいオンラインFPSが成功することの難しさだった。

※本記事に記載する運営費はEA、Riot Games、Blizzardが公表した金額ではありません。公開されている開発・技術情報やゲーム規模などをもとにした独自の概算です。実際の費用とは大きく異なる可能性があります。


オンラインFPSは「完成してから」もお金がかかる

ゲーム開発には莫大なお金が必要になる。

これはイメージしやすい。

しかし、APEXやVALORANTのようなライブサービス型ゲームでは、発売したところで支出が終わるわけではない。

むしろ、そこからが長い。

例えばAPEXは2019年にサービスを開始したが、2026年現在も新レジェンド、既存レジェンドのリワーク、マップ更新、ランク調整、オーディオ改善など多数のアップデートが計画されている。

さらにマッチメイキング、サーバーパフォーマンス、アンチチートについても継続的な改善が行われている。

つまりAPEXは、発売から7年以上が経過しても、

「ゲームを完成させた後に維持している」というより、現在進行形でゲームを作り続けている

と考えた方が近い。


APEXの年間ランニングコストを考えてみる

まずはAPEX。

通常のバトルロイヤルでは最大60人がひとつのマッチに参加する。

仮に世界で平均20万人が同時にプレイしているとすれば、単純計算でも3,000を超える60人マッチ相当のプレイヤーを同時に処理することになる。

実際にはランク、カジュアル、Mixtape、射撃訓練場など複数のモードが存在するうえ、すべての試合が60人満員になるわけでもない。

さらに必要なのはゲームサーバーだけではない。

マッチメイキング、フレンド、パーティー、ランク、戦績、所持アイテム、バトルパス、ショップなど、大量のデータを処理するバックエンドが必要になる。

アップデートがあれば、そのデータを世界中へ配信するCDNも必要だ。

そして忘れてはいけないのがチート対策。

2026年3月にもAPEXはXIMやTitanといった第三者製デバイスへの対応について発表しており、アンチチートチームが現在も継続的に対策を行っている。

こうした費用をすべて積み上げていく必要がある。


一番高いのは「サーバー代」とは限らない

オンラインゲームのランニングコストと聞くと、

「サーバー代がものすごく高そう」

と思うかもしれない。

もちろん安くはない。

しかし、それ以上に大きくなり得るのが人件費だ。

エンジニア。

ゲームデザイナー。

3Dアーティスト。

アニメーター。

サウンドデザイナー。

QA。

ネットワークエンジニア。

セキュリティ担当。

カスタマーサポート。

ローカライズ担当。

APEX規模のライブサービスを継続するためには、さまざまな分野のスタッフが必要になる。

しかも一度ゲームを作れば終わりではない。

次のシーズンを作りながら、現在発生している不具合を直し、ゲームバランスを調整し、サーバーを改善し、チーターとも戦う。

巨大なオンラインFPSとは、毎年ゲームを作り続けるビジネスでもある。


APEX・VALORANT・Overwatchの運営費を試算

では、実際にどれくらいのお金が必要なのだろうか。

今回はランニングコストを、

「サーバー・クラウド」

「通信・データベース」

「開発・運営スタッフ」

「セキュリティ」

「QA・CS・ローカライズなど」

の5項目に分けて試算した。

項目Apex LegendsVALORANTOverwatch
ゲームサーバー・クラウド15〜30億円20〜40億円10〜25億円
通信・CDN・データベース10〜25億円10〜25億円10〜20億円
開発・運営スタッフ60〜100億円60〜120億円50〜100億円
チート・セキュリティ・監視5〜15億円10〜25億円5〜15億円
QA・CS・ローカライズ・その他10〜30億円10〜40億円5〜40億円
年間合計(推定)約100〜200億円約110〜250億円約80〜200億円
1日あたり約2,700万〜5,500万円約3,000万〜6,800万円約2,200万〜5,500万円

※あくまで公開情報などからゲーム規模を想定した概算。各社の実際の支出額を示すものではない。また広告宣伝費やeスポーツ大会の賞金・イベント運営費などは原則として含めていない。

数字にはかなり幅を持たせている。

それでも注目したいのは、

APEX:約2,700万〜5,500万円/日

という試算だ。

もちろん実際に毎日同じ金額が支払われているわけではない。

それでも平均すると、APEXというゲームを明日も当たり前に遊べる状態にするために、毎日数千万円規模のお金が動いている可能性があるということだ。


VALORANTは「サーバーを安く動かす」ことまでゲーム開発だった

VALORANTには、この話を考えるうえで非常に興味深いエピソードがある。

VALORANTは競技性を重視して128tickのゲームサーバーを採用している。

しかしRiot Gamesによると、初期段階では1試合を処理するだけでCPUコアひとつを使ってしまうほど負荷が高かった。

それでは世界中のプレイヤーに128tickサーバーを無料提供するには、あまりにも高価だった。

そこでRiotはゲームそのものを最適化。

36コアの物理サーバーで108試合、最大1,080人を処理することをひとつの目標として開発を進めた。

ここが面白い。

オンラインFPSでは、

「ゲームが動くかどうか」だけでは足りない。

「数百万人が遊んでも採算が取れるように動かせるか」

まで考えてゲームを作らなければならないのだ。

さらにVALORANTには「Vanguard」というアンチチートシステムも存在する。

高品質なサーバー。

世界規模のネットワーク。

アンチチート。

新エージェント。

新マップ。

バランス調整。

これらを継続して提供するには、当然大きなコストが必要になる。


Overwatchも100万以上のアカウントをチート関連でBAN

Overwatchも事情は同じだ。

Blizzardは「Defense Matrix」と呼ばれる取り組みを展開し、チートや不正デバイス、迷惑行為などへの対応を継続している。

近年の公式発表では、Overwatch 2開始以降にチート関連でBANされたアカウントが100万を超えたことも明らかになっている。

100万アカウントをBANしたという数字だけでも、オンラインFPSにおける不正対策がどれだけ巨大な仕事なのかが分かる。

チートを検出するシステムを開発する。

新しいチートが登場する。

対策する。

また別の方法が登場する。

さらにコンソールでは不正な周辺機器への対応も必要になる。

オンラインFPSを運営するということは、ゲームを作り続けるだけでなく、ゲームを公平に遊べる環境そのものを維持し続けることでもある。


そして、新作FPSにも同じ問題が待っている

ここからが今回もっとも考えてみたかった部分だ。

例えば、まったく新しいオンラインFPSを作るとする。

数年間かけて開発。

数百人のスタッフ。

広告宣伝。

ようやくゲームが完成する。

すでに莫大な開発費が投入されている。

しかし――。

発売日はゴールではない。

むしろ、そこからランニングコストとの戦いが始まる。

サーバーを動かす。

アップデートを作る。

チートに対応する。

問い合わせに対応する。

新キャラクターを作る。

新マップを作る。

バランス調整をする。

そして、そのすべてを続けながらプレイヤーを集めなければならない。


相手はAPEX、VALORANT、Overwatch

さらに恐ろしいのが競争相手だ。

新作FPSを発売した瞬間、

APEX、

VALORANT、

Overwatch、

Counter-Strike、

Call of Duty、

Rainbow Six Siege、

Fortniteなど、

すでに巨大なプレイヤーコミュニティを持ったゲームと競争することになる。

しかもゲーム市場で奪い合っているのは、単純なお金だけではない。

「プレイヤーの時間」だ。

APEXを毎日2時間遊んでいる人に新作FPSを遊んでもらうには、その2時間の一部をこちらへ向けてもらわなければならない。

さらに長年遊んできたゲームには、

フレンド、

ランク、

スキン、

戦績、

コミュニティ、

そして何百、何千時間というプレイ経験が蓄積されている。

新作はゼロから、それらと戦わなければならない。


「そこそこ人気」では生き残れない?

さらにオンライン対戦ゲームには人口そのものがゲーム体験に影響するという問題がある。

プレイヤーが減る。

↓

マッチングに時間がかかる。

↓

同じ実力のプレイヤーを集めにくくなる。

↓

実力差の大きい試合が増える。

↓

ゲーム体験が悪化する。

↓

さらにプレイヤーが減る。

こうした負のループが発生する可能性がある。

しかも人口が減ったからといって、コストが同じ割合で減るわけではない。

サーバー数は減らせる。

しかし新コンテンツを作る開発者は必要だ。

チート対策も必要。

バグ修正も必要。

カスタマーサポートも必要。

つまりオンラインFPSでは、

「ある程度人気がある」だけでは十分ではない可能性がある。


XDefiantが示した厳しい現実

この問題を象徴するタイトルのひとつが、Ubisoftの『XDefiant』だ。

2024年に登場した基本プレイ無料FPSで、サービス開始当初には大きな注目を集めた。

しかし同年12月、Ubisoftは開発終了を発表。

Ubisoft自身が説明した理由が非常に興味深い。

スタート自体は好調で熱心なファンも存在したものの、競争の激しい基本プレイ無料FPS市場で、長期的に必要な規模のプレイヤーを獲得・維持できなかったという。

さらに、今後の大規模な投資を正当化するために必要な成果からも遠かったとしている。

そして2025年6月にサービスは終了した。

重要なのは、

「誰も遊んでいなかったから終わった」とは限らない

ということだ。

プレイヤーが存在しても、

その人数。

課金額。

今後必要になる開発費。

運営費。

それらを考えた結果、

「この先も投資を続けられるか」

という経営判断が待っている。


オンラインFPSは「面白い」だけでは成功できない時代なのか

もちろん、今回の試算だけでオンラインFPSのサービス終了理由をすべて説明することはできない。

ゲーム自体の評価。

マーケティング。

発売タイミング。

競合タイトル。

課金設計。

アップデート頻度。

さまざまな要因が絡んでいる。

それでもランニングコストという視点から見ると、ひとつの厳しい現実が見えてくる。

オンラインFPSは、面白いゲームを作って発売するだけでは成功できない。

何年にもわたってプレイヤーを集め続ける。

課金してもらう。

サーバーを維持する。

新しいコンテンツを作る。

チートと戦う。

そして、その間もAPEXやVALORANTと競争し続ける。

新しいオンラインFPSを成功させることは、私たちが想像している以上に難しいのかもしれない。


それでも、新しいFPSを期待したい

ここまで考えると、

「それなら新しいFPSなんて作らない方がいい」

という結論になりそうだ。

でも、個人的には逆だ。

だからこそ、新しいFPSを遊んでみたい。

Apex Legendsが登場したのは2019年。

VALORANTは2020年。

Overwatchの原点となる初代作品は2016年。

今では当たり前のように存在しているゲームも、最初はすべて「新しいFPS」だった。

APEXが事前告知をほとんどせず突然登場し、多くのプレイヤーが初めてキングスキャニオンへ降下したとき。

VALORANTがタクティカルFPSとアビリティを組み合わせ、新しい競技シーンを作っていったとき。

OverwatchがFPSに個性豊かなヒーローを持ち込んだとき。

そこには、

「今までとは違うゲームが始まった」

というワクワク感があった。

現在のオンラインFPS市場で、もう一度そこへ挑戦することは簡単ではない。

ゲームを作るだけでも莫大なお金が必要になる。

完成した後にも莫大なお金がかかる。

そして成功した巨大タイトルと、プレイヤーの限られた時間を奪い合わなければならない。

今回、オンラインFPSのランニングコストを試算してみて見えてきたのは、

新しいFPSを世に送り出すこと自体が、想像以上に大きな挑戦なのではないか

ということだった。

それでも。

次のAPEX。

次のVALORANT。

あるいは、そのどちらともまったく違うゲーム。

そんな一本が突然現れて、また世界中のプレイヤーが同じゲームに夢中になる。

そんな瞬間を期待したい。

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