【APEX】ENTER FORCE.36はなぜ強い? Cinap・Jusna・obly それぞれが乗り越えてきた物語

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596,014人が見た夜

2023年、ENTER FORCE.36(E36)のApex Legends部門は、ALGS Championshipの舞台で自分たちの歴代最高記録を打ち立てた。同時視聴者数596,014人。日本と韓国、二つの国のファンが同じ画面を見つめた夜だった。
だが、記録に残ったのは「見られた数字」であって「勝った記録」ではない。E36はこの年、まだ世界の頂点には届いていなかった。年間獲得賞金は2022年に約2万ドル、2023年に約3万ドル、2024年も3万ドル弱と、じりじりとした足踏みが続いていた。
このチームの土台には、2022年から関わり続けている一人の生え抜きがいた。Cinapだ。

第1章:バンから始まったCinapの物語

Cinap、本名キム・サンロク(???)は2004年5月20日生まれ、韓国出身。2022年6月、E36がApex部門を立ち上げた直後からチームに関わってきた最古参の一人だ。
だが彼のキャリアは順風満帆には始まっていない。2022年4月、Cinapは年齢要件を満たさずに大会へ出場したとして、ALGSから1年間の出場停止処分を受けている。プロシーンに足を踏み入れたばかりの10代が、いきなりルールの壁にぶつかった格好だった。この年の獲得賞金はわずか3,500ドル、バン期間にあたる2023年に至っては75ドルという数字が、その重さを物語っている。
2024年1月末、Cinapはスタンドインという形でチームに合流し、3月には正式契約へ。ここから彼のキャリアは静かに上向いていく。2024年の獲得賞金は9,721ドル、2025年には31,232ドルまで伸びた。バンを乗り越えた10代の選手が、チームの土台として育っていった時期だ。

第2章:渡り鳥Jusnaの合流

Cinapが力をつけていく一方で、チームにはもう一人の韓国選手が加わる。Jusna、本名シン・ヨンジュ(???)、2002年5月2日生まれ。彼がE36にたどり着くまでの道のりは、まさに”渡り鳥”という言葉がふさわしいものだった。
2022年はFOR7でキャリアをスタートし、2023年には韓国チーム「ganbare otousan」に籍を移してALGSのSplit 1・Split 2 PlayoffsやChampionshipといったロンドンの大舞台を経験する。2024年には日本の強豪Crazy RaccoonでEsports World Cupにも出場するなど、キャリアを積み重ねていった。
そして2025年3月1日、JusnaはCrazy RaccoonからE36へ移籍する。3つのチームを渡り歩いた末に見つけた居場所で、彼はCinapと並ぶチームの新たな柱になっていく。

第3章:エースの喪失

CinapとJusnaが力をつけていく裏で、当時のE36を支えていたのは韓国出身のエース、ILYだった。だが2026年2月、ILYは契約解除に伴いチームを去り、世界的強豪Fnaticへと移籍する。「新たな物語、されど同じ覚悟。」Fnaticが移籍発表に添えたこの言葉は、ILYにとってもE36にとっても、一つの時代の区切りを意味していた。
エースを失ったチームが次に必要としたのは、若い二人を支えられる経験者だった。

第4章:世界一を知る男、oblyの再出発

その穴を埋めるように、2026年3月に加入したのがobly本名リム・ジョンヒョン、1999年12月18日生まれ、3人の中で最も重みのある経歴を持つ選手だ。
oblyのキャリアは2020年、名門T1にまで遡る。T1で約1年活動した後Riddleへ移籍し、韓国シーンで実績を積んでいった。転機は2024年1月19日、日本の強豪REJECTが韓国チームと提携して発足した「REJECT WINNITY」への加入だ。oblyはこのチームの中心選手となり、同年のALGS 2024 Split 1 Playoffsで優勝。これはアジア地域のチームとして初めての世界タイトル獲得という、Apex Legends競技シーンの歴史に残る快挙だった。oblyはその瞬間、アジアで最初に頂点に立ったプレイヤーの一人になった。
栄光から2か月後の2024年7月、oblyはCrazy Raccoonへ移籍する。しかしそのCrazy RaccoonのApex部門は2025年8月に解散を発表し、oblyは所属先を失うことになる。世界一を経験したベテランが、行き場をなくした瞬間だった。
その半年ほど後、oblyが新天地として選んだのがE36だった。世界の頂点を知る男が、エースを失ったばかりのチームに加わり、Cinap・Jusnaという若い韓国選手たちと肩を並べる??ここに、現在のロースターが完成する。
なお、oblyは2023年、対戦相手から人種差別的な発言を向けられるという出来事にも見舞われている。相手選手は後に謝罪し、oblyはそれを受け入れつつ自身の”挑発”にも非を認めるという冷静な対応を見せた。プロとしての経験の厚みは、プレー面だけでなくこうした局面での振る舞いにも表れている。

第5章:2026年1月、世界3位という手応え

Cinap、Jusna、oblyバンからの出直し、渡り歩いた末の定住、そして世界一からの再出発。3つの物語が交わって間もない2026年1月、E36は「ALGS Year 5 Championship」で世界3位という結果を掴む。ILYというエースを欠いた新体制での挑戦は、E36の名を再び世界に刻みつける結果になった。
キル数・アシスト・ノックダウン・ダメージ、あらゆる部門でCinapとJusnaが上位に名を連ねるようになっていく。「CHAMPION VC」??優勝を決めた瞬間の選手たちの声を収めた動画には、苦しい時期を乗り越えたチームの実感がにじんでいた。
勢いはそのまま、2026年4月から6月にかけての日韓プロリーグ「ALGS Year 6 Split 1 Pro League ? APAC North」にも引き継がれた。結果は総合4位。栄冠には届かなかったが、この順位が意味するものは大きかった??世界大会「Esports World Cup(EWC)2026」への切符だ。

第6章:Esports World Cup 2026

もともとサウジアラビアで開催されてきたEWCは、2026年、当時の社会情勢を受けて開催地をフランス・パリへと移すという異例の決断を下した。24タイトル、賞金総額7,500万ドルという史上最大規模の大会に、世界40チームがApex Legends部門で激突する。E36にとっては、前年のEWCで掴んだ世界9位という結果を超えられるかが問われる大一番だった。
7月6日、パリ・エキスポ ポルト ド ヴェルサイユで開幕したEWC2026。E36はAPAC North地域を代表する韓国籍選手主体のチームとして、世界のトップクラスに挑んだ。
大会は一筋縄ではいかなかった。E36はグループステージを終えた時点で厳しい立ち位置に置かれ、Survival Stageという”敗者復活”に近い舞台へと回ることになる。ここで敗れれば、そこで大会は終わり。
だが、E36はSurvival Stageで総合5位という結果を叩き出し、自力でFinals進出を決める。苦しい展開が続くなかで見せたこの粘りは、APAC Northという地域を背負って戦うチームとしての意地だったと言っていい。
最終的な順位は総合20位。優勝した日本チーム「UNLIMIT」がFPS史上初となる日本勢の世界大会優勝という歴史的快挙を成し遂げた大会で、E36は表彰台には届かなかった。それでも、oblyがかつて味わった栄光には届かなくとも、エースの移籍という痛手を乗り越え、Survival Stageから這い上がってFinalsの舞台に立ったという事実は、記録以上に記憶に残る戦いだった。

第7章:パリの悔しさを力に変えて??独走するRegular Season

パリでの20位から2か月。E36は次のステージ「ALGS Year 6 Split 2 Pro League ? APAC North」で、まったく違う顔を見せることになる。
Regular Season最終日となった9月6日、E36はデイリー94ポイント(プレースメント35+キル59)という圧巻のスコアを記録し、この日の首位に立った。2位に36ポイントもの差をつける独走ぶりで、複数試合でチャンピオンを獲得。ある試合では19キルチャンピオンを達成し、SNS上でも一気に注目を集めることになった。
この最終日の勢いがそのまま総合順位にも表れた。E36はRegular Seasonを総合125ポイントで首位フィニッシュ。2位ZETA DIVISION(103ポイント)に22ポイント差をつけ、3位REJECT(91ポイント)を含めた上位争いから頭一つ抜け出した格好だ。上位20チームによるRegional Finals進出も、当然のように決めている。
パリで見せたのは”崖っぷちから這い上がる粘り”だった。今回のRegular Seasonで見せたのは、それとは対照的な”圧倒する強さ”だ。バンを乗り越えたCinap、渡り歩いた末に居場所を見つけたJusna、世界一の経験を持ちながら行き場を失っていたoblyそれぞれ違う痛みを抱えてきた3人が、シーズンの最終盤で最も勢いのある状態に仕上げてきたことになる。

エピローグ:9月13日、3つの物語が交わる場所へ

「あの日、あと一歩届かなかった頂 傷跡を強さの証明として刻み、再び前へ進め」Split 1 Pro League開幕前にALGS APAC Northが送ったこの言葉は、そのままE36というチームのここまでの歩みを言い表しているようにも読める。
Regional Finalsは9月13日、マッチポイント方式で実施される。優勝チームに加え、シーズンを通じて獲得したポイント上位9チームの計10チームが、次のステージ「Split 2 Playoffs」への出場権を手にする。
生まれた年も歩んできた道も違うCinap、Jusna、obly。バンからの出直し、複数チームを渡り歩いた末の定住、そしてアジア初の世界タイトルの記憶??3つの物語を抱えたこのロースターが、Regular Seasonで独走したその勢いのままRegional Finalsでも頂点に立つのか。それとも僅差で追うZETA DIVISION、REJECT、RIDDLE ORDER ZEROらが逆転を果たすのか。
エースを失っても崩れず、世界の舞台で這い上がり、そして地域最強の座を掴みかけている??E36のApex Legends部門の物語は、まだ終わっていない。9月13日、APAC Northの頂点を懸けた最後の戦いに注目が集まる。

E36の今のRegular Season独走は、単なる調子の良さでは片付けられない。
ILYというエースを失った直後は不安要素として語られたはずだが、Cinap・Jusna・oblyという異なる背景を持つ3人が、代役ではなく主力として結果を出しているんだ。
特にoblyのようにアジア初の世界タイトルを知る選手が「支える側」に回れているのは、他チームには真似しにくい強みだよ。
一方で気になるのは、Regular Seasonでの強さがそのままマッチポイント方式のRegional Finalsで再現できるかという点。
E36はEWC2026のSurvival Stageでも見せた通り、崖っぷちからの粘りには定評があるが、逆に独走している立場での”逃げ切り”はまだ証明していない。
ここが今のE36にとって唯一の未知数だと思う。

期待したいのは、9月13日を通過点にすること。
EWCで届かなかった表彰台に、Split 2 Playoffsを経て今度こそ手を伸ばしてほしい。
エースの喪失を乗り越えた今のロースターなら、それができる下地は十分にある。

Iv(イブ)|Esports4
eスポーツを追いかける個人メディア「Esports4」を運営。APEXを中心に、VALORANT、スト6、Shadowverseなど国内外の競技シーンを取材・発信。初心者やライト層にも「何が起きているのか」が伝わる記事を目指しています。

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